◆学習意欲を刺激する◆
和田孫博(灘高校長)
 学力というと、知識そのものが重要だと思われがちですが、そうではない。
 私は学力の本質とは、学習意欲だと思っています。
 知識として知っていても、それをもっと深く知りたいとか、もっと理屈がわかりたいとか、そういう気持ちがないと、本当の意味での学力は定着しないし、学力向上なんてありえない。
 教育を施す側が、生徒の学習意欲をいかに刺激できるか。それが重要なんです。
 子どもたちには本来、周囲のいろんなものから吸収しようとする学習本能が備わっているから、それをうまく刺激できればいいんですよ。

 ところがいまの学校教育は、子どもの学習意欲をうまく刺激できていない。
 例えば物理の授業にしても、生徒の好奇心を刺激するには、実験をたくさん取り入れないといけないんですが、ただ実験をやってハイ終わりではダメなんです。
 悪口を言うわけではありませんが、いまの文科省のカリキュラムは、実験だけで終わりにしてしまう。
 実験は中学校のときにやるけれども、理論は難しいから高校にまわそうと。
 でもそれでは、手品を見せるだけで、そのタネ明かしをしないのと同じです。
 あー、手品ってすごいな、驚いたな、で終わってしまう。
 そうじゃなくて、難しくても、少しタネ明かしをしてあげる、つまり実験をしたら同時に理論を教えてあげる。 そうすると、生徒の好奇心は必ず増してくるんです。

 教育する側が、今の子どもたちの学びのニーズをつかみきれていないことも問題です。 
 彼らがインターネットやパソコンを使う能力は、われわれをはるかにしのいでいます。 自分たちが興味を持ったことを各々に調べさせて、プレゼンテーションなんかさせると、趣味に関すること、それこそアニメの世界の話とかもあるんですが、本当に面白い報告をするんですよ。
 こういった今の子どもたちのニーズをつかめれば、好奇心を高めることはできると思うんですが、そのニーズを満たすような、新しい教育コンテンツの開発などがずいぶん立ち遅れているように思いますね。
 教育ノウハウや学校のあり方を、いまの子どもたちの学習本能を刺激できるような形に変えられるか、其の学力向上のためには、そこが重要なんだと思います。
 
『子どもから学力を奪う“間違いだらけ”の学校教育』より
雑誌「週刊現代」p.171..172

       ※週刊誌の記事ですが、日頃の私の主張とも重なる部分も多いので、掲載することにしました。