「がんばれない子」を育てないために
〜学習性無力感理論の視点から〜

人はふつう、起こった出来事に対して、3つの視点からその原因を説明しようとする。
 
その3つの視点とは、
  
A:内的な要因によるか、外的な要因によるか
  
B:特異的な要因によるか、全体的な要因によるか
  
C:永続的な要因によるか、一時的な要因によるか

の3点である。

 たとえば、テストの成績のよしあしの原因を「自分の努力」に求める人は、内的な原因帰属で説明しようとする人であると言える。
 
また、テストの成績のよしあしの原因を「テストに限定したある理由」に求めようとする人は、特異的な原因帰属で説明しようとする人であり、「テストに限らず他の事象にも見られる原因」に求めようとする人は、全体的な原因帰属で説明しようとする人であると言える。
さらに、永続的な帰属をすれば、いつも成績は悪く、一時的な帰属では、たまたま今回の成績が悪かっただけだと説明をしようとする。

 その説明スタイルを3つの次元で表したのが右図である。

EX.〉次元分けを示した下図において
ア、 望ましくない出来事に遭遇した場合、@のような原因帰属に立つ説明スタイルを持つ人。
イ、 望ましい出来事に遭遇した場合、Aのような原因帰属に立つ説明スタイルを持つ人。
  〜悲観的傾向に陥りやすく、自分の力で効果的に対応できるという期待や信念が乏しい。
 
  自己効力感が低く、動機づけや自尊心が容易に損なわれ、成功体験を持ちにくい。
 
ウ、 望ましい出来事に対して、@のような原因帰属を行う人。
エ、 望ましくない出来に対して、Aのような原因帰属を行う人。
〜楽観主義者
自己効力感が高く、不安も低いので、積極的にモノゴトに挑戦し成功体験を得て
さらにやる気を示す傾向が強い。

 ところで、学習性無力感理論によると、悲観的傾向を呈しやすい人には抑うつの素因があり、重大な失敗や喪失・挫折といった望ましくない出来事に遭遇すると、容易に無力感に陥り、抑うつ症状を示すと言われている。
 子どもが失敗や挫折をしたときに、その原因を「内的・全体的・永続的な要因」に求めて説明をしたりすれば、子どもを無気力にしたり無力感を持たせたりするおそれがある。

 たとえば、「あなたはいつも失敗ばかりしている」「こんなこともできないようでは、他のこともうまくいくわけがない」「がんばりや努力が足りないから失敗するのだ」などと指摘されれば悲観的な自己認識しかできなくなってしまい、自尊心の低下や意欲の喪失につながることは言うまでもない。
 同じ理由で、「いつかできるようになるよ」「がんばればできるよ」という言葉も学習性無力感を引き起こしてしまう危険性をはらんでいることに注意する必要がある。

 そうした言葉を投げかける側は、今回の失敗は仕方がないという慰めの気持ちや、次こそはがんばろうという気持ちが持てるようにという応援の意味を込めて言っているつもりである。
 しかし、失敗をするたびにこの言葉をかけられる子どもは「いつかって、それはいつなの?」と見通しの持てない不安に追い込まれたり、「何をどうがんばればいいの?」と目的の混乱を起こしてしまうこともあるからだ。

 そこで教師の出来ることは、その子が「できそうなこと」を見きわめることだ。
「できそうなこと」「できること」に子どもの意識が向き、そのことで「自信」や次への挑戦に対する勇気など自尊感情を獲得できるよう、指摘・賞賛することが大切になるだろう。
 すなわち、子ども自身が効力予期(『ぼくにもできるかも知れない』『できそうだ』)を感じて、意欲(やる気、やれる気)が持てるようにするためには、そうした教師の「まなざし」が重要な意味を持つだろうということである。

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